労働法

同一労働同一賃金の現実 コロナ不況下での非正規労働者の待遇改善

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先週Eの派遣先企業で派遣切りがありました。
新型コロナによる受注減もあるけど、昨年夏頃からの相次ぐ取引先の減少などもともとの経営不振が原因だと思われます。
非正規労働者がいかに不安定な立場かを目の当たりにしましたが、4月から大企業で導入された同一労働同一賃金の法改正、現状抜け道だらけのザル法だって知っていましたか?

同一労働同一賃金って何?

同一賃金同一労働についてもう一度簡単に確認です。
Eがいつもおすすめしているわかりやすい厚労省の動画があります。是非見てください。
厚労省の同一労働同一賃金解説動画はこちら

まず、法改正の目的はというと、
「同一企業内において正社員と非正規雇用労働者との間で、基本給や賞与などのあらゆる待遇について不合理な待遇差をなくす」ということです。

既に施行された現在、この正規と非正規の不合理な差が改善されたかどうかを見ていかなければなりません。
職能給が一般的な先進国と比べて日本は待遇差が著しいらしいです。この日本の特異な労働環境が改善されるんでしょうか?

同一賃金同一労働の通称が誤解を与えるケースが多いんですが、仕事の内容が同一なら賃金などの待遇は同一(均等)にしなければなりません。
重要なのが、仕事の内容が同一でなければ違いに応じた待遇(均衡)にしなければならない、ということです。

具体的な内容は、厚労省のガイドラインがあり、問題となる例、問題とならない例、として数多くの事例が列挙されています。同一労働同一賃金のバイブルとも言えます。
厚労省のガイドラインの概要資料はこちら

例えばガイドラインの中に、定期的に職務の内容及び勤務地の変更がある労働者が配置の変更のない労働者より基本給が高いことは(もちろん均衡している前提で)問題ない、とされていたりします。
つまり異動や転勤のある正社員はそれがない非正規より賃金が高くてもいい、ということです。

実際、Eの職場でも世の中の多くの職場でも正社員と非正規では仕事の内容は完全に同じではないですよね。
Eの派遣先企業で働いているセクションでも正社員は派遣社員や期間工とは別に次のような業務をしています。

・月間の出勤シフト作製
・不良が大量発生した場合の原因追求と対策

同一労働同一賃金について、わかりやすい一冊です

同一労働同一賃金の法改正がザルである理由

Eが今回の同一労働同一賃金の法改正がザル法だと思う根拠は以下の通りです。

・待遇差をつけた場合の根拠が単なる会社の主観である
(厚労省のガイドラインに明確な数値がない)
・派遣会社が労使協定方式を採用した場合、「同一」の概念が根底から無視されている
(賃金などが全国平均との比較に過ぎない)
確実に同一にしなければならない待遇はあるが、瑣末な項目だけ
(通勤手当、慶弔休暇、社員食堂など)
・いろいろあるけど、結局罰則がない
(一切守らなくてもいいんですよ、状態)

これらについて解説します。

待遇差をつけた場合の根拠が単なる会社の主観である

よく正社員と非正規の待遇差がつく場合の例として挙げられるのが、正社員の勤務地の変更を伴う異動、つまり転勤があるかどうか、です。

正社員 ⇨ 転勤あり ⇨ 基本給が高い
非正規 ⇨ 転勤なし ⇨ 基本給が安い

正社員は転勤という負担をしているからこの基本給の差は合理的だ、とされています。厚労省のガイドラインでも転勤がある場合とない場合は同一ではない、とされ待遇差があってもいいということになっています。

はいはい、まあわからないでもないけど、どれくらいの待遇差をつけていいことになっているの?って疑問に思いますよね。

この待遇差の基準についてはどこにも書かれていません、数値もなし、つまり制限なしです。同一労働同一賃金のバイブル、厚労省のガイドラインにも書かれていないんです。
会社にこれが合理的だと説明されてしまえばそれがまかり通るわけです。

Eは更に突き詰めます。これは厚労省のガイドラインを真っ向から否定する意見になりますが、「転勤があるから何?」って思いませんか?

正社員の立場から見れば、俺たちいつ転勤になるかわからないから非正規と違って大変なんだよ、って思うでしょう。
でも非正規から見れば、今現在正社員と一緒にやっているこの作業と転勤とが何の関係があるの?って思いますよね。均衡してるとは思えないですよね。

Eも若かりし頃、東京から名古屋に転勤したことがあります。
もちろん転勤手当をもい、社員寮としてワンルームの部屋に格安で住めたし(自分で借りてた東京の部屋の4分の1の家賃)給料にも若干の転勤分の上乗せがありました。
実際に転勤すればいろいろと優遇があります。
転勤する前から上乗せする意味ありますか?

会社は非正規より正社員の待遇を厚くしたい、これはわかります。
景気や業績が悪くなったらクビにする予定の非正規より長く、結構な割合で定年まで働く正社員には心情的にも待遇をよくしたいですよね。
何かしら理由をつけて正社員を優遇したいわけなんですよ。厚労省のガイドラインにはその言い訳のための抜け道がいくつも用意されています。

責任の程度、管理する部下の数、ノルマの有無、トラブルや緊急時対応の有無、などなど。

それぞれ見ると確かに正社員はたいへんですよね。
Eの職場でも大きなミスがあると若手の社員が上から対策しろと言われて、機械の横に注意書きのテプラを貼ったりチェックリストを作ったり役に立つかどうかわからん形だけの対策をして上に報告する。
Eもベテランなんでそのへんは忖度して、とりあえず(始めだけ)やりましょうと言っておく、みたいなことが繰り広げられます。
正社員の給料高いのしょうがないです。

でもたいへんだからといって待遇差の度合いはほぼ無制限OK。結局均衡っていっても企業側の都合のいい主観にすきません。非正規の低すぎる基本給は1ミリも動きません。

はいザル法、認定です。

派遣会社が労使協定方式を採用した場合、「同一」の概念が根底から無視されている

同一労働同一賃金施行後の派遣労働者の賃金の決定方法は2つあります。

均等均衡方式 …… 派遣先の同じような働き方をしている実際の正社員と派遣労働者の賃金を同一、または均衡させる。

労使協定方式……「同種の業務に従事する一般の労働者の平均的な賃金の額」と比較して派遣労働者の賃金(時給換算)が下回らないようにする

これについても前述の厚労省の同一労働同一賃金解説動画がわかりやすいです。
もう一度リンクを貼ります。「派遣労働者編」の方です。
厚労省の同一労働同一賃金解説動画はこちら

過去の記事にも書きましたが、均等均衡方式は派遣会社が派遣先企業に大きな事務負担を依頼する必要があるので採用する派遣会社は少ないはずです。

Eの派遣会社もそうですが、その仕事の全国平均(地域調整はあります)を上回っていればいい、という派遣会社内だけで完結できる労使協定方式を採用する派遣会社が多いでしょう。

労使協定方式を採用するとどうなるかというと、
例えばEが働いている派遣先のいつも一緒に働いている正社員よりはるかに給料が安くても一切関係ない、全国平均より高ければ問題ない、と判断されてしまうわけです。

これはもう、「同一企業内」において正社員と非正規雇用労働者との間で、基本給や賞与などのあらゆる待遇について不合理な待遇差をなくす、という本来の目的から完全に逸脱しちゃってますよね。

この表はEが派遣会社から説明を受けた時の資料(一部改編)です。この表についての解説も厚労省の動画にあります。

Eの時給は地域調整した数値の0年の欄、「1,071円」より高いから今まで通り、となりました。
派遣会社が3年以上同じ職場で働いているEの能力・経験値を0年と判断したのは当然、Eの時給を一円でも上げないための都合のいい主観です。

確実に同一にしなければならない待遇はあるが、瑣末な項目だけ

中には、確実に正社員と非正規で同じにしなければならない項目もあります。

通勤手当を非正規にも正規と同じ額を非正規にも正規と同じ額与える
慶弔休暇を非正規にも正規と同じ額、同日数与える
社員食堂の正社員とそれ他で値段に違いのあったメニューを同じ値段にする

などです。

要するに、企業が負担してもそんなに痛くないもの、です。
これも過去の記事に書きましたが、Eは一律月1,500円だった通勤手当が派遣会社の社員と計算方法が同じになって約1,000円上がりました。
月1,000円って、痛くも痒くもないでしょうね~。

4月以降のEの労働条件で上がったのはこれだけでした。
逆にこれまで派遣先企業が支給していた皆勤手当の5,000円がなくなり、おかげでこれからは休みたいときは皆勤手当を気にせず休めます(涙)。

いろいろあるけど、結局罰則がない

最後はこれに集約されます。
罰則なし、懲役も罰金もありません。

ちなみに労働基準法の一番重い罰則は強制労働の禁止(第5条)で、「1年以上10年以下の懲役または20万円以上300万円以下の罰金」です。結構重いですよね。

あまり知られていないですが、36協定を締結、労基署に提出をせずに1日8時間・週40時間以上の労働をさせた場合、6カ月以下の懲役、または30万円以下の罰金が科されます。

さらに、去年(2019年)4月からは、36協定を締結していても一定の時間外労働時間数を越えて働かせた場合は、これまでなかった罰金(6カ月以下の懲役、または30万円以下)が科されるようになりました。
上限を越えて残業させると罰則が科されるというわけです。

ところが、
同一賃金同一労働については罰則なし。
どこまでもザル法です。

罰則のないこの法改正は意味がないのか?

罰則がなく、別に守らなくてもいいんですよー、状態のこの法律、意味があるんでしょうか?

Eがお答えします。意味があるんです!

Eの派遣会社も派遣先企業もほとんど非正規労働者の待遇が上がっていない。
派遣先企業の期間工に至っては時給を下げられてさえいる。
とはいえ、派遣会社は派遣労働者代表との労使協定を結び、派遣先企業は労働組合と協議して正社員と期間工の給料を下げて両者の待遇を均衡させる(推測)などの法令順守のための努力をしてきたわけです。
罰則がないのにです。
なぜでしょう。

【派遣会社・大企業の事情】
派遣会社は労働局から定期報告を求められたり調査が入ったりと常に監督指導を受けています。
調査は派遣労働者を雇っている派遣先企業にも入ります。

またEの派遣先企業は上場企業です。法令違反がニュースにでもなれば即、株価は下落します。
過去には不正会計などの法令違反が明るみに出て株価が暴落し、株主が経営陣に損害賠償訴訟を起こした例もあります。

つまり、罰則がないからといって派遣会社や大企業はこの法律を無視できないわけがあるんです。

【中小企業は?】
ただ、来年4月に適用される中小企業はそうはいかないでしょう。
中小企業の場合、待遇を上げたくなくて故意に違反する場合も多数あるでしょうが、法令が理解できなくて結局何もしない、というケースが非常に多いはずです。
これはEが社会保険労務士時代に多くの同じような事例を見てきました。

とはいえ、今回の同一賃金同一労働の動きはこれからの非正規労働者の待遇改善への長い道のりのスタートです。
昨年4月にこれまで無制限だった時間外労働にようやく罰則が定められたように、労働者の待遇改善には長い時間がかかります。

そうでないと企業側も持ちません。

【企業側の懐事情】
予期していなかったコロナ不況が襲ってきたこの4月に、罰則付きで同一賃金同一労働が強行されていたら日本経済はどうなっていたでしょうか。

人件費負担が企業経営に大きな打撃を与えます。
日本中の企業がバタバタと倒産して失業者があふれ、非正規の待遇改善どころの話じゃなくなっていたかもしれません。
近年、非正規労働者の割合が急激に上がってからもそれほど長い時間が過ぎてはいません。待遇改善の道のりはこれからです。

まとめ

「法は権利の上に眠るものは保護しない」という格言があります。

例えば、働いた分の給料を正しく払わない会社があったとします。
法律上当然払わなければ違法ですが、労働者が何も行動しなければいつの間にか不払い賃金を請求できる時効の2年が過ぎて給料を受け取る権利は消えてなくなります

今回、非正規労働者が得た正社員との均等・均衡した待遇という新しい権利も同様です。
労働者自身が法律を理解して、自分の会社を監視していくことが必要です。

Eの周りの派遣社員たちを見ると、Eの派遣会社がしたような労使協定の締結の手続きもなく、労使協定の説明さえも受けていない人が多くいます。
もしかしたらEの派遣会社も元社会保険労務士で労働法に詳しいEにだけには労使協定の説明をして他の派遣社員には一切していない、ということもあり得ます(ないとは思いますが)。
派遣会社に何も言われていない、という派遣社員の人は是非確認してみてください

労働者一人一人が声を上げることで社会を動かせます。これは歴史が証明しています。
まずは法律を理解し、立ち上がりましょう。
ではまた!

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