ご無沙汰してました、台湾移住シリーズです!
約20年前に台湾は台中市に移住。
台湾の大手語学学校「地球村」で日本語教師の仕事を始めたE。
私生活の方面では、多くの生徒たちと近場から観光地まであちこちに遊びに連れて行ってもらい毎日をエンジョイしていました。
さて、日本語教師としては全くの素人で何の知識もなく台湾に渡ったEが、日々の学校での講義をどうこなしていたのでしょうか?
今回は20年前の素人日本語教師Eの平均的一日のルーティーンを紹介します!
地球村日本語教師の苦悩
過去の記事で紹介しましたが、全くの素人で台湾に渡って日本語教師としての初めての授業を、人生最大の緊張でガチガチになりながらなんとかやり過ごしたことを語りました。
人生初の日本語講義はひとコマ(120分)の授業のために(長い!)それこそ1週間以上かけてネタを考えたにもかかわらず、考え抜いた授業ネタがたった30分で終わってしまい焦りに焦ったことも語りました。
初授業は生徒たちの暖かい思いやりのおかげで何とかやり過ごしましたが、大変だったのはその日ばかりではありませんでした。
素人日本語教師に立ちはだかる自国語の文法
初授業のあり様からもわかる通り、日本語教師を始めた初期の初期はとにかく授業の準備が大変でした。
まずしなければならなかったことは、日本語の文法の把握でした。
自分が使っている日本語の文法がわからない。
まず、日本語教育の場面で使っている文法用語は、我々が国語の時間に教わったものとかなり違います。
学校の国語の文法用語 | 日本語教育の文法用語 |
形容詞 | い形容詞 |
形容動詞 | な形容詞 |
五段活用(例:働く) | 1グループ(の動詞) |
上一段活用(例:生きる) 下一段活用(例:食べる) | 2グループ(の動詞) |
カ行変格活用(来る、のみ) サ行変格活用(する、のみ) | 3グループ(の動詞) |
と、国語の授業では学術用語そのままを教えられましたよね。
それが日本語教育の場面では簡略化され、学習者にもわかりやすい名称がつけられています。
確かに、学生時代国語の時間に日本語にはいろいろと活用があることは勉強しました。
が、ネイティブ日本人が学ぶ自国語の文法と、外国人が学ぶ外国語としての日本語の文法は大きな違いがあります。
自国語の文法って、正直日本人が日本語を話すために学ぶ必要があるかないかといったら、完全にないですよね。
学校で学んだ「五段活用」だとか「形容動詞」だとか一切知らなくても我々は自由自在に日本語を操れます。
『てをには」などの助詞の使い方なんて、一応法則はあるものの「とにかくこういう場面ではこの助詞を使う」としか説明がつかないものも数多くあります。
日本人にとって日本語文法は究極のところ「慣れ」です。
(例えば、「わたしは」と「わたしが」の違いを、日本語学習者が納得して劇的に使い分け可能になるように説明できますか?)
が、日本語学習者にとって文法は切実な問題です。
世界有数の複雑な文法を持つ日本語、動詞や形容詞に気が遠くなるほど多くの活用を持つ日本語。
この日本語というカオスを少しでも整理するための命綱なのです!
この日本語学習者からの視点で日本語文法を見た場合、普段造作なく活用して使っている動詞ひとつ取っても、とんでもなく習得が難しい言語であることに気づかされます。
自分が日本語と比べれば活用も少なく、文法が簡単な英語の勉強を始めた時のことを考えてもわかるかと思います。
あの言語を習得するのに文字さえ必要がなかった幼児期をとうに過ぎてから、別の言語をなんの法則も教えられずに身に着けることなどできるものでしょうか?
文法は日本語学習の命綱、
と、いうことは。
いかに素人教師であろうと、教壇で教える自国語の文法を知らぬでは成立しないのであります。
明日の授業、地球村の教科書に出てくる文法項目。
なんとしても把握した上で授業に臨まなければならないのでした。
そしてその日本語文法の、まーわけわからんこと。
どうして1グループ(五段活用)の動詞「書く」のて形は「書きて」じゃなく、か行でも何でもない「書いて」と活用するんだ?(「書きます」はちゃんと「き」を使って活用するのに)
一体どう学習者に申し開きすればいいんだ!
と、日々苦悩するのでした。
にほんブログ村
日本語教師のルーティーン
では、そんな悩める日本語教師の(20年前の)一日ルーティーンです。
場所は台中市中心部の中華路近くのアパート。
台中市で地球村で働き始めてもうすぐ1年を迎えようという頃。
この日の勤務地は地球村、台中駅前の分校。
昼間に90分の授業が2コマ(初級と中級)。
夜に120分の授業が1コマです(初級)。
当時の台中駅前の地球村
10:00 起床
当時、朝がとにかく弱かったEはギリギリに起床。
授業は11時から、台中駅前の分校まではバイクで5分。
もし早く目覚めれば朝食専門の「早餐店」で朝ごはんにありつける。
台湾の「早餐店」には蛋餅(玉子をクレープの皮で巻いたもの)や漢堡(ハンバーガー)や飯糰(各種の具を白米でくるんだもの)などのおいしいメニューがたくさん。
が、いつもなかなか起きられず。
台湾の早餐店、この写真は台北駅近くにて
この日は買っておいた食パンとコーヒーで済ます。
食パンは、台中から電車で20分ほどのところにある員林の分校での勤務のある日に近くのおいしいパン屋さんで購入する。
本日の教案は前日までに作成済み。
暑かった夏が終わりかけているとはいえこの時間には気温は30℃近い。
急いでシャワーを浴びて出勤。
服装は完全普段着で、何度も手洗いしたヨレヨレのTシャツ。
教科書と教案ノート、水のペットボトル、空き時間に読む台中市の紀伊国屋で買った日本語の文庫本を入れたバックパックを背負ってアパートを出る。
10:45 出勤
地球村台中駅前分校に5分で到着。
午前中から始まる授業は生徒はそう多くはない。
受付の女性二人もヒマそうにしている。
軽く挨拶をしてタイムカードを打刻すると、教室へ。
駅前分校での授業は勤務していた3年余りの間ずっと変わらず週に二日、台中駅の駅舎が見える教室。
多くの地球村教師は授業開始時間より後に、教師によっては10分も過ぎてから教室に入る。それが普通にまかり通る。
が、Eは常に遅くても10分前には教室入り。
なぜなら、
台湾人の生徒たちと話すのが好きだったから♪
教室に入るとすでに馴染みの生徒たちが来ている。
昼間の授業で多いのは主婦の方々。そしてなぜか授業がない学生さん。
この日もご主人が医師、弁護士、社長、といった有閑マダムが参加。
そして、過去の記事でも紹介した宜蘭の小旅行を共にした学生、孫さん、許さん、陳さん、その他の学生も来ている。
当時の昼間の駅前校での授業は夏休み期間を除けばリピーター率が80%は超えていた。
教室に入ってしばし雑談。
もちろん新顔の生徒がいれば話しかける。
リピーターばかりと話していると新顔の生徒は疎外感を感じてしまう。
完全ガラス張りの教室。
11:00 授業開始
「初級」の90分授業開始。
開始時間と共にお友達モードから教師モードに変換。
冒頭は、改めてEの近況などの話題で雑談。
新顔の生徒には自己紹介してもらい、Eがいくつか質問を。
これでその生徒のレベルがわかる。
名前はノートにメモして次回以降も名前で呼ぶ。
おかげで名前をすぐ覚える教師として名が知れる。
これは飲食店の店長時代にお客さんの名前を覚えた手口と同じ。
雑談タイムではなにかしら笑いを取ろうとするE。
この日はなにかとよく笑ってくれるご主人が弁護士の丁さんのおかげで一応ウケを取った形に。
教科書に入る。
地球村の初級と中級は、書店でも販売されている月刊雑誌を教科書として使う。
生徒は書店や受付で購入。教師にはタダで支給される。
雑誌には日付ごとにテーマに沿った会話文載っていて、いくつか文法のポイント解説がピックアップされている。
雑誌の文章を事細かに文法や語句解説する先生もいるけど、E自身の外国語学習の経験から90分の授業で山盛りに詰め込まれても何ひとつ身につかない。
文法や文型を二つほど絞って解説したり練習してもらうようにしている。
講義は全て日本語で行う。
聴き取れない学生も多いからホワイトボードに板書しながら解説。
相手が台湾人でよかった。漢字が通用する。
Eの授業でのしゃべりも日本で普通にしゃべっていた時より格段にゆっくりと滑舌も意識して話すようになった。
と、教科書を使うのは始めの60分ほど。
教師がしゃべるだけの授業では対面授業の意味がない。
残りの時間はEが適当に決めたテーマで生徒にしゃべってもらう。
この日のテーマは「今年一番驚いたこと」。
話しやすいようにテーマには幅を持たせる。
当然、人前でしゃべるのが苦手な生徒もいるが、そこはEが言葉を引き出す。
そんな感じで初級の授業90分が終了。
1時間後には同じ教室で90分の中級の授業がある。
12:30 昼休み
初級の授業を受けた生徒の中には、引き続き次の中級の授業を受ける生徒も多くいる。
ということはこの時間は「昼休み」。
お昼ご飯の時間。
この頃、生徒の中に小学校の教師を定年退職した鄭さんがいて、いつも大量のお昼ご飯を持ってきてくれる。
他の生徒も自分で用意してきたお昼ご飯の他に、鄭さんの差し入れのご相伴に預かるんだけど、もちろんEも。
教師を定年退職した鄭さん。
台湾の公務員は退職後も手厚い恩給が受け取れる。
ありがたくいただくEたち。
もちろん、みんなで外の食堂に食べに行く場合もあり。
台湾料理は最高!これは香蕉新楽園のレストラン
と、昼休みは日本語もお休み。
みんな中国語で会話する。Eも勉強中の中国語の練習。
台湾移住と同時に中国語の勉強を始めてかれこれ1年。
この時点ではまだみんなの会話がほとんど理解できない。みんなの話が盛り上がっているときには日本語堪能な生徒に会話の中身を聞く、といった感じ。
こういった生徒同士の会話に加われるようになるには2年ほどかかる。
お昼ご飯を終えると一旦教室を離れる。
ずっと教室にいたままだと、授業と私的交流の区別がなくなるから。
すぐ隣の書店で本を見たりなど。
13:30 授業再開
10分前に教室に戻って中級の授業開始。
この「中級」の授業はここ台中駅前分校では最高レベルのクラス。
地球村には「高級」というクラスもあるにはあるが台北などの一部の分校にしかないと聞いていた。Eが働いたことのある分校にはいずれも存在しなかった。
地球村の月刊雑誌の中級のページも結構ハイレベルな高校の教科書くらいの日本語の文章(会話文ではない)が載っている。
よって、中級の授業になると生徒が減る。
残ったのは初級の授業に出た生徒の半分くらい。
もちろん新参の生徒もいる。
と、この中級の授業。
Eは教科書を使ったのは始めの1、2か月ほどだけ。
内容的にも多くの生徒が興味を持ちにくく、教科書の文章は全く使わなくなる。
ここ台中の地で最高レベルの授業に参加してくれた生徒たちには、ぜひ実践の日本語会話をしてもらおう、と。
中級もまた、教師によっては教科書の文章を事細かに解説する人もあり。
そういった情報は生徒間の口コミでいき渡っているはずだから、Eの授業は会話練習と承知の上で選んでここに来ている、はず。
とはいえ、ただの雑談はしない。
それをすると決まった人しか話さなくなるし、話題も偏る。
Eが話題を決めたり設定を決めてロールプレイングをしたりする。
この日のテーマは「記者会見」。
①生徒に順番に記者会見を受けてもらう。
この際に役割を与える。例えば、
「新作映画が公開になった映画監督」
「突然の結婚を発表した人気俳優or女優」
「樂透(宝くじ)で1億元当たった人」
「汚職がばれた政治家」などなど。
これはEが台湾ニュースなどを見て仮想の人物を想定して考えておく。
②他の生徒には記者になって順番に質問をしてもらう。質問内容は自由。
③各役割の生徒がそれに答える。
といったロールプレイング。
完全にEのオリジナル。
剪刀石頭布(ハサミ・石・布=じゃんけん)で勝った人から好きな役を取ってもらって記者会見開始。
と、このように生徒たちの会話が弾むようにと、Eは日々様々なネタを考えているのであった。
中でもこの「記者会見」は好評で、盛り上がるのであちこちで使っていた。
あらかじめ用意した教案だけでは時間が余ることもしばしば。
そんなときのための繋ぎネタも日本語教師1年経過したこの時期には豊富にそろっていた。
よく使ったのが「活用タイム」。
とにかく動詞や形容詞と活用の種類が膨大な日本語。
活用を制すれば日本語を制す。
例えばこの日は「ば形」
「働けば」「食べれば」といった仮定に使う活用形。
①Eが動詞の辞書型(原型)を生徒に順番に提示する。
例:「書く」「笑う」「見る」
②生徒はそれにスピード解答。
「書けば」「笑えば」「見れば」、というように。
③生徒が正答できない場合も多くあるが、Eが次々に当てては答えをホワイトボードに板書していく。
これもなかなか好評。
実はEが昔、英会話のNOVAに通っていた頃、あるネイティブ教師が残った時間にこのような活用練習をしていて結構いい練習になったのでその流用。
と、こうして90分の中級の授業が終了。
台中駅近くの食堂の乾麺
15:00 授業終了
どうでしょう、ここまでのところなかなか楽しく過ごすことができました。
この時、2コマの授業を終えて午後3時。
次の授業は夜7時からの120分の授業。
すき間時間というには長い時間があります。
さて、この後の日本語教師Eのルーティーン、
次回続きをお伝えします。
近日公開します。
乞うご期待!
NOVAは昔も今もコスパがいいですね。