工場勤務の派遣社員Eです。
今年の5月に一度、それまで働いていた製造行の工場派遣からIT系の派遣先に替えました。
しかし、いろいろあって、10月からまた別の製造業の工場派遣に戻りました。
これまでの派遣経験から『派遣先の条件』として、ひとつの絶対的な答えが導き出されました。
今回はその答えをお伝えします。
ヒントは「コンプライアンス」です。
確実な「派遣先の条件」とは?
Eはこれまでの派遣社員生活で次の結論に至りました。
工場派遣で働くなら大企業にすべき
なぜ、この結論に至ったか、簡単に言えば「労働法規の遵守」が大企業の方が正しく行われているからです。
Eの派遣遍歴
Eは過去に長短含めて4つの派遣先で働きました。以下の通りです。
【派遣先A】
地元企業 製造業 非上場 工場数2か所
派遣期間:約4か月
【派遣先B】
地元企業 製造業 上場企業 工場数多数 海外拠点多数
派遣期間:3年
【派遣先C】
地元企業 IT系企業 子会社 大手企業の業務委託
派遣期間:約半年 ※名目は業務委託契約だが実態は多重派遣
【派遣先D】
大手企業 製造業 上場企業 工場・関連企業多数 海外拠点多数
派遣期間:2か月(契約期間中)
派遣先Cを除く3社は製造業ですが、だんだんと企業の規模が大きくなっているのがわかります。
このように。
非上場企業 → 地元上場企業 → 大手上場企業
この三社を比較すると、派遣社員の扱いについては規模が大きい会社の方が確実に従業員の扱いが丁寧です。
【派遣先C】のIT系の会社については特殊なので今回は触れません。過去記事でいろいろ書いています。
前派遣先に在職中のドタバタについての記事です。
企業規模と派遣社員待遇との関連
各企業でEが気になった派遣社員への待遇、対応を紹介します。
派遣先A 地元企業 非上場
5年ほど前、ポリテクセンターでの6か月の職業訓練を終え、まだ就職先が決まらず、宅建士の試験を受けて結果発表を待つ間に初めて派遣社員として働いた工場でした。
この時は今とは別の派遣会社でした。
地元企業で自社製品を持たない完全な下請け専門工場でラインでの手作業。
派遣契約期間は一律1か月。しかも同時期に一斉に大量に雇われました。
というのも大手企業からの大量の受注が入ったようで、それを短期間にこなすために大掛かりな募集をかけたようでした。
他の派遣社員の中には長期で働けると思って入った人もいましたが、世慣れた人間なら派遣期間が1か月、大量同時募集とくれば短期で契約終了になるだろうとすぐわかります。
Eは宅建士の試験に1点足りずに落ち、前職の会計事務所時代にEの担当顧客だったある社長に誘われてその会社に就職することになって途中抜けしましたが、Eが辞める頃には軒並み契約終了になっていって始めの半分ほどの人数に減っていました。
ちなみにEは抜群の生産スピードを誇っていたので会社側からの契約終了は告げられていません。
というのも、正直こういった工場派遣に集まる労働者の人たちって、作業の理解度、スピードなどのスキルというかポテンシャルというかがあまりよくありません。
おかげでそれまで経験した職場の中でもかなり気楽に働けました。
言ってしまえば、派遣って最高!とくらいに思っちゃってました。
そんなある時、生産に使う材料が足りなくなり終日全工程が休業になる日がありました。
契約に従って働くはずの派遣社員にとって、突然の一日の休業はかなりの収入減になります。
コロナ不況の昨今、派遣社員を休ませるにも休業手当を払え、とか雇用調整助成金だとかの話がついて回るのに、その地元企業は何の補償もしませんでした。
元社会保険労務士であり、超ブラックな自分の会社を労基署に訴えたこともあるEは当然派遣会社に連絡して補償はないのか、と問い合わせました。
この場合、派遣会社が契約違反、違法にならないようにするために取るべき手段としては次のものがあります。
①休業手当(平均賃金の60%)を支払う。
②他の派遣先などで働かせて契約通りの給与を支払う。
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休業手当とは
あくまでも派遣社員の給料の出どころは派遣先ですから①の休業手当を支払うなら派遣先の工場が派遣会社を経由して支払うべき。
②の他の派遣先等で働かせるならその派遣先が支払うべきですが、このケースの場合、地元企業は休業になった日に関して一切の支払いをする気がないのでしょう。
こうなると派遣会社は自腹を切って少なくとも平均賃金の60%を支払うしかない。
根拠はこの法律、労働基準法です。
【労働基準法 第26条】
『使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない』
「平均賃金」の計算はやや複雑です。
単純に「時給×8時間」というわけではありません。
【労働基準法 第12条】
この法律で平均賃金とは、これを算定すべき事由の発生した日以前3箇月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額をいう。(以下略)
三か月分の賃金、これには通勤手当や皆勤手当てなど含まれる手当もあります。
これを、その期間の「総日数」で割ることになります。
勤務日数で割るわけではないので、一日働いた分の賃金より低くなります。
平均賃金には最低保証もあります。
ざっくりとした説明でしたが、平均賃金について詳しくはこちらをどうぞ。
⇒平均賃金について(神奈川労働局HP)
派遣会社が派遣先の責任なんだから払いたくない、となれば後から然るべき方法で請求されるのを覚悟で支払いを拒否するしかありません。
Eの派遣会社はどうだったのでしょうか。
派遣会社の対応
案の定、休業の補償は一切しない出さない、との回答でした。
まあ、世の多くの派遣会社はこうするでしょうね。
契約上の権利である労働の機会を一方的に奪われたわけですから、当然Eは不服です。
いろいろあって会社や経営者を反射的に敵視するようになっていたEは、法的手
段での請求することも真剣に考えました。
E以外の普通の派遣社員ならしょうがないとあきらめるでしょう。
が、Eは会社や経営者に、どうせ文句言うやつはいないだろうとタカをくくられ、軽く扱われることにはマジで頭にくる方です。
考えたのは、どうせ短期で契約終了になるから、退職後に給料請求の時効の2年が過ぎる前に内容証明郵便で会社都合休業の補償を請求する、ということ。
⇒内容証明郵便についてはこちら(日本郵便HP)
来週は寒くなりそうですね。
Eは会計事務所時代に業務で内容証明郵便を書いて送ったことがあり、その効果はよく知っています。
内容証明郵便で送られた文書は、文書の内容の存在と相手が文書を受け取ったことが客観的に証明されます。
その他にも、相手の請求の意思が強いということも示されるので、受け取った相手は心理的に圧力を受けます。
請求自体に法的な拘束力はありませんから、相手が無視したり拒否すれば次の手段として労働基準監督署に訴えます。
Eはこれも経験済みです。
と、いろいろやり方はあるんですが。
この程度の(超ブラック会計事務所と比較して)休業補償のためにこれだけのことをやるのは効率が悪いと思い、結局行動には出ませんでした。
とりあえず、労働自体は発生していないわけで、平均賃金の6割の請求権を放棄して契約違反を見逃したことにはなりますが、損したとまでは言えないかなと思ったからです。
ま、損しているとも言えますが。
実は、この派遣先の会社都合の休業はこれだけではなくて、年末年始の休みも会社既定の休み以外に派遣社員だけ休業、という日を設けたため出勤日が二日ほど減少、給料も減少、という憂き目にあいました。
中小企業の労務管理の現実
実を言うと、こういうことがあり得るのはEは先刻承知していました。
なぜなら、会計事務所時代に多くの地元企業の人事労務管理の状況を見てきましたが、正しい(法律にのっとった)労務管理をやっている会社は皆無といっても過言ではありませんでした。
それどころか、目を疑うような事例もたくさん見ました。
労働法の無知、無視、労働者からの搾取と日本の中小企業の労務管理は無法地帯です。
ひどい例をいくつか挙げると、
①従業員が商品の投機的な取引業務で損を出した、とやらで給料から補填させる名目で最低賃金を大幅に下回る賃金を支払っていた。
②経営不振を理由として従業員に「雇用保険は脱退(?)する」と宣言して労働保険(労災保険と雇用保険)を数年間支払っていなかった。当然、退職者は雇用保険未加入状態。
ここまでいくと従業員が訴えれば即アウトなんですが、ホントにどうにもEには理解できないことなんですが、こんな扱いを受けても従業員たちは声を上げないんですよね~。
なんで?
この二つの事例はどちらも従業員を20~30人雇用している法人でした。
こういったことが起こる原因に経営者の労働法の無知も挙げられます。
経営者、労務管理担当はこの本で基本から勉強し直しましょう。労働者の人も「これ、うちの会社もやってる」と心当たりありませんか?
※詳細は画像をクリックしてください。
本当は怖い中小企業の労務管理
①の事例ですが、最低賃金の違反はどうやっても言い逃れはできません。
理由が従業員の過失だとしても、賃金は全額払いという大原則があります。損失の天引きなんて言語道断。
それに、その社長の性格からして従業員が損失を出したなどという言い訳も、十中八九言いがかりです。
その社長にはEも何かと嫌な思いをしました。
②の事例もかなりヤバいです。
もし従業員の中にEがいて、退職して雇用保険が未加入だったという事実を知り、離職票を書いてもらえなかったら即、ハローワークと労基署に訴えています。
それにこのケースは会社自体大きなリスクを背負うことになります。
雇用保険は労災保険と同時に申告し納付します。
労災保険って、そもそも従業員が怪我(または死亡)したときに本来会社が損害賠償するところを保険料を納めることによって国が代わりに支払ってくれるという、重大なリスク回避のための保険です。
ちなみに労災保険は労働者の負担はゼロ、全額会社負担です。
とはいえ、労働保険料未納でも結局は国が医療費などをいったんは全額払って(保険給付をして)くれます。
が、結局事業主は国が支払った保険給付額の「故意」に未納なら100%、「重大な過失」で未納なら40%を徴収されることになります。
この例では、故意なら100万円、重大な過失なら40万円です。
当然この他に未納の労働保険料も支払わなくてはなりません。中小企業なら資金繰りを一気に危機に陥れるような額ですよね。
この会社は、社長の息子の奥さんが自分の会社で働いていたんですが、その奥さんが妊娠した時に育児休業給付を受けられないことがわかり、社労士のEが呼ばれて相談を受けました。
その時に、労働保険の未納のリスク(ヤバさ)を説明したら、過去の未納分を支払って育児休業給付を受けられるようにと労働保険料の申告の依頼を承りました。
ちなみに雇用保険は、非適用事業所になることはあっても脱退できるわけではありません。
この社長は、雇用保険というものは任意に加入したり脱退できたりするものだと大きな思い違いをしていたわけですね。
愚か者が(失礼)。
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労務管理者のスキル
中小企業の労務管理を一手に握っているのが、法律を聞きかじった程度の社長の奥さんただ一人、というケースがあったりします。
これはそこそこの規模の会社でも意外とあります。勤務体系やシフトの作り方や給料計算を社労士などに外注すればいいものを、ケチるばかりに無法状態でめちゃくちゃなことをやっていたりします。
でもそこで働いている人たちはきっと、うちの会社はちょっとばかりおかしなところはあるけど給料はちゃんと払ってくれているだろう、と不安ながらも期待していることでしょう。
会計事務所で中小企業の財務と労務を見てきたEにとってそんな幻想は、バラバラに砕け散って足元の土と見分けがつかないくらいに粉々になってしまっています。
一見、気さくで人の好さそうな社長でも、あの手この手で従業員の給料を極限まで抑え、オブラートに包んだサービス残業を課し、その上で社長一族は役員の座を占め、どの従業員よりも高額の役員報酬を懐に入れている、という実態を嫌というほど見ました。
経営者とはそういう生き物です。
これを読んでいるあなたの会社も同じですよ。
まとめ
こんな中小企業庁のデータがあります。
資本金1億円未満の企業では、同族会社の割合は約97%
(平成19年度)
同族企業では従業員の待遇のコンプライアンスをチェックする機能は働きません。
しかし同族企業でなければ、なんらかの法令順守のチェック機能が働けば、従業員の待遇はよくなるはずですよね。
そう、それが上場企業です。
次回は、Eが体験した上場企業での派遣待遇について語ります。
お楽しみに!