いよいよ新年度が始まりましたね。今日から大企業で同一労働同一賃金がスタートします。
派遣社員やパートなどで働く非正規労働者のみなさんにはいろいろと変化があったんではないでしょうか?
僕も若干の労働条件の変更がありました。 今回は僕の派遣会社のこれまでの動きと今後の派遣社員の賃金の決定方法について解説します。
ところでEは先週(3/24)の記事にこう書きました。
「(非正規労働者の賃金などの待遇改善は)そう簡単にはいかないと思っています。僕の予想では、ほとんどの企業で基本今までと同じか、給料が上がってもわずかでしょう。場合によっては下がることもあり得ると思っています。同一労働の比較対象となる正社員の給料を下げるという短絡的な策に出る会社も出てくるでしょうから。」
さてフタを開けたらどうなったでしょうか。
まずは、Eの派遣会社のこれまでの動きについて見てみましょう。
ところで今回の改正法はパートや契約社員などの直接雇用の非正規労働者も対象となっていますが、この記事では派遣労働者に絞って解説したいと思います。
Eの派遣会社の動き
【最初の動き 2月第1週】
今から約2か月前の2月の第1週に派遣会社の僕の担当者からサインをもらいたい書類があるからと来社依頼メールが来ました。
その日早速出向いてサインした書類はというと、
- 通常の派遣労働契約書(1か月分)
→3か月契約だったけどこの時の契約は1か月分 - 派遣会社の労働者代表選任の意思表示の書類
→要するに労働者代表を決める投票用紙
の二点でした。
今まで3か月契約だったのに1か月契約となった理由はまさに同一労働同一賃金の改正法が4月1日から施行されるからでした。
僕の派遣会社が雇用する(おそらく日本中のほとんどの派遣会社も)すべての派遣社員が一旦3月31日で契約を区切って新しい改正法の下、新しい労働契約、労働条件で 4月から 一斉にスタートするというわけです。
そして「労働者代表の選任」ときました。これは多くの場合、労使協定の締結を意味します。
この時点で僕は同一労働同一賃金の法改正の内容についてざっとしか理解していなかったんですが、それでもこう思いました、「やっぱり労使協定方式を選んだか」と。
【新たな労働契約締結 先週(3月27日)】
先週の金曜日(3/27)にまた派遣会社に呼び出され、二つの書類にハンコを押しました。
- 4月1日からの同一労働同一賃金の改正法に基づいた新たな派遣労働契約書
- 今回の法改正のために締結した労使協定の重要事項説明書(労使協定の要約)
これによってEの派遣会社の同一労働同一賃金に対する方向性がはっきりしました。
次に、派遣労働者の賃金の決め方について解説していきます。
法改正によって整備された労働条件(賃金)の決め方
今回の労働者派遣法の改正法は、「不合理な待遇差(正社員と派遣社員との)を解消する」ことを目的にしています。派遣社員の場合はあくまでも雇用主である派遣会社が賃金などの労働条件を決定します。
そのためには次の2つの仕組みのどちらかを選ばなければならないとされました。
派遣先均等・均衡方式 労使協定方式
この二つの制度はなかなか複雑でしっかり説明しようとするとどうしても長くなります。先日の記事にも書きましたが、厚労省がHPに掲載している動画にわかりやすく説明されています。
これを見るとほぼわかります↓ この中の『派遣労働者編』を是非ご覧ください。
https://www.mhlw.go.jp/hatarakikata/same.html
が、見ない人もいるかと思うので賃金の決め方に絞ってざっと説明します。
【派遣先均等・均衡方式 】
まず、派遣先企業に派遣社員と職務内容などが近い比較対象労働者(正社員)を選定してもらいます。
↓↓
そして、比較対象労働者について待遇情報を提供してもらいます。この情報提供には国のガイドラインがあって詳細で量も多く、派遣先企業にとって手間のかかる作業になります。
↓↓
その上で、派遣会社が賃金など労働条件を決定します。その際、派遣社員と派遣先の比較対象労働者との間で待遇が均等・均衡になるようにしなければなりません。
あくまでも均等・均衡です。完全に同じにしろというのではありません。つまりある程度の幅があるということです。
【労使協定方式】
まず、労働者の過半数を代表した者と労使協定を締結して賃金などの労働条件を決めます。
が、賃金を決めるときに下限があり、ある金額以上でなければなりません。
ある金額とは
↓↓
この下限の賃金額を「同種の業務に従事する一般労働者の平均的な賃金の額」(以下、一般賃金額)と言います。
↓↓
この一般賃金額は『平成30年賃金構造基本統計調査による職種別平均賃金(時給換算)』と『平成30年度職業安定業務統計による地域指数』を掛けて算出します。
↓↓
労使協定で決められる賃金額はこの一般賃金額以上でなけれなばなりません。
この説明でもまだわかりにくいですよね。
もっと簡単に言うと、
あなたの時給が国が職業別、能力・経験レベルに地域差を加味して決められた世間の平均的な時給以上ならOK、未満ならNG。
ということです。
何度も言いますが、上記の動画を見れば簡単に理解できます。是非見てください。
また、時給の下限である一般賃金額を求める際の資料は先日の記事にも載せたこのHPの中のPDF資料にあります↓
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000077386_00001.html
二つの賃金(労働条件)決定方式のメリットとデメリット
【派遣先均等・均衡方式】
デメリットは派遣会社と派遣先企業の双方が結構煩雑な作業を必要とすることです。
労働条件の決定のために派遣会社が派遣先の企業から詳細な情報をもらわなければならないので、多くの派遣先企業は事務作業の負担を強いられるこの制度を嫌うでしょう。
一方、派遣会社にはメリットがあります。
労使協定方式にあるような賃金の下限が明確にされていないことです。比較対象の正社員との「均等・均衡」が必要ですが、いくらとはっきり金額が示されるわけではないので、ぶっちゃけ安めのギリギリを攻めることもできるというわけです。
とはいえ派遣会社にとって派遣先企業はいわば顧客です。
その顧客がかなり寛大で事務負担を容認してくれる企業であればこの方式も可能ですが、Eの社労士経験から言うと、この情報提供の事務作業を正しく遂行する能力のない企業さえもあります。大企業では少ないと思いますが、来年から適用される中小企業のかなりの割合で難しい作業になるでしょう。
極端な話「面倒だからおまえのところの派遣はいらない」と言われる可能性もあり得るのでこちらの方式を採用するケースは少ないと僕は見ています。
実際、僕の派遣会社も次の労使協定方式を採用しました。
【労使協定方式】
こちらもデメリット(派遣社員にとってはメリット)があります。
既に述べたように賃金額に下限があることと、下限額を決める際に使われる国が示した基準の賃金額が経験年数によって上がるため、長く雇用する派遣社員の賃金はいずれ上げなければならなくなることです。
逆に言うと、長く勤めた派遣社員は将来賃金が上がると切られる可能性も出てきます。
メリットとしては、派遣先企業が行う作業はゼロで派遣会社も派遣先に面倒な依頼する必要がありません。
まとめ
今回、Eと同じように労働条件が新しくなった人は多いと思います(逆に何も変わってないという人はおかしいなと思いましょう)。
同一労働同一賃金の施行の裏で今回解説したようなことが行われていました。
さて、それを踏まえて賃金に関して次のことをチェックしてみましょう。
①あなたの派遣会社が採用しているのは派遣先均等・均衡方式ですか、労使協定方式ですか?
②新しい労働条件を見直してみましょう。あなたの時給は(労使協定方式なら)下限を下回っていませんか?
③下限の賃金額は正しく決められていますか?
先日の記事にも書きましたが、会社というものは国が労働者に良かれと思って何かの施策を始めても、とにかく現状維持に固執して労働者に支払う賃金を1円でも増やすまいとする習性があります。
しっかりと戦える知識を蓄えて労働者の権利を守っていきましょう。
次回はEの労働条件がどうなったかを解説しようと思います。
ではまた!