派遣社員歴通算で約4年、長短4社の派遣先で働いてきました。
派遣先選びの条件として、「工場派遣で働くなら大企業、それも上場企業にすべき」と前回の記事で語りました。
Eが会計事務所勤務時代に見たとんでもない労務管理の事例も紹介しました。
今回はEが見た大企業、上場企業の労務管理について語ります。
前回の記事です。
派遣先B 地元上場企業
Eの前々派遣先工場で、今年の4月まで昼夜交代制で働いていました。
その派遣先は派遣社員と期間工がほとんど。
Eの部署は他の工程に比べて作業にかなりの手間と時間がかかるため、常に流れが滞って作業待ちの製品が溜まっていました。
そのため、残業はしたいだけしてもいい状態。
Eも入ってすぐに結構な時間の残業をするようになりました。
が、月に1、2回の頻度で前の工程の設備の不良などのトラブルでかなりの手待ち時間ができたりします。
特に夜間の勤務の時には上長が不在で作業の指示も受けられないことが多く、先輩の派遣社員の中には派遣会社によって出勤として認められる時間だけ時間を潰した後に帰宅する人も複数いました。
Eは手待ち時間はそれほど気にならない方ですが、やることがないけどあからさまにサボるわけにもいかず、だらだら過ごすのは苦痛だという気持ちはわかります。
程よい作業量が続く方が勤務時間を過ごしやすいですよね。
ある日、丸一日手待ちになりそうだった日にEも途中で帰宅したことがありました。
すると翌日、工場の部署のリーダーに、「ヒマでも帰らないように」との注意を受けました。どこか掃除でもしていなさい、と。
その前の最初の派遣先で、材料不足で作業がストップする日に突然の休業を言い渡されて何の補償もない(※前回の記事参照)という経験をしていたEは少し意外でした。
ヒマでも帰るな、という理由は派遣会社との契約に抵触するから、とのことでした。
まあ、これは当然と言えば当然ですよね。
堂々と契約違反をしてでも従業員を休ませる方がルール上はおかしいわけでが、Eは一瞬こんなにも良心的な会社があるのか、と思ってしまいました。
が、すぐに気づきました。
別に良心的だからではない。理由はこれです。
上場企業だからコンプライアンス違反の責めを負うリスクを避けているだけだ。
と。
最初の派遣先がそうでしたが、派遣先が堂々と契約違反で派遣社員を休業させる。そうすると派遣会社も売上減になるわけです。
当然派遣社員と同様に不服なわけですが、強くは言えません。
派遣先は派遣会社にとってビジネス上は顧客だからです。
派遣会社としては文句を言って派遣先から煙たがれる、または派遣契約を打ち切られるよりは、少しくらいの減収なら派遣社員を黙らせて、派遣先の言うことを聞かざるを得ません。
このEの二つ目の派遣先の上場企業も力関係から言えば、やろうと思えば派遣会社を黙らせることもできるでしょう。
しかし、上場企業には法令順守をしなければならない理由があります。
風評によって株価が下落したり、取引先からの信用が落ちるかもしれないからです。
その上場企業は複数の派遣会社から多くの派遣社員が派遣されて働いていました。
Eの派遣会社にとっても上得意客で、いち派遣社員のEが勝手に途中帰宅して、派遣会社に数時間分の減収をもたらしたとしても、派遣会社が派遣先の上場企業に苦情を言ってくるなど、まず考えられません。
それでも企業はリスクを恐れます。
ことに現場に直接かかわる責任者もその責めが自分に降りかかってきたら大変です。
そこで、とりあえずは責任回避の手段としてEに「勝手に帰るな」と注意したわけです。
これで派遣社員Eの途中帰宅は自己判断で勝手にやったもの、という事実を確定させられます。
では、普段からヒマだと勝手に帰っている先輩派遣社員は?
その後すぐにわかりましたが、彼らは勝手に帰る常習者で、その部署の中でも一握りの人たちでした。
Eが入ってからも何度も注意を受けていましたが、開き直っているのか、それほどまでにヒマが嫌いなのか、その日出勤してヒマだとわかるとすぐに帰っていきました。もちろん彼らの派遣会社もその実態は承知しているようです。
要するに彼らに関しては自分たちの強い意志で帰っているわけですから、派遣先工場が経費節約のために帰らせた、との責めを負う可能性がないために黙認状態というわけです。
で考えてみてください。
この会社は明らかに作業がない手待ち時間に、サボりを黙認して(実際そういう時Eたちは半分以上の時間サボっていました)人件費をムダに支払っている状態ですよね。
例えば、夜間であっても誰かが他の部署での作業をさせるなどの細かな人員配置をすればいいですよね。
なぜそれをしないのか、Eはその理由に気付いています。
派遣会社との契約違反などのコンプライアンス違反が怖いだけではありません。
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大企業が人件費の浪費を黙認するもう一つの理由
最初の派遣先の非上場の地元企業では、大手の会社からの大量の下請け受注が入り、その納期に間に合わせるためEを始め大量の派遣社員が集まりました。
つまり、その作業のド素人が大量に入ったわけです。
そういうことは下請け会社ですからよく起こることではあるとはいえ、生産を軌道に乗せるため、納期に間に合わせるため、かなりの力を投入しなけばなりません。
現場にはしばしば会社の上役、時には社長が見回りに来たりしていました。
工場長がラインに入ってEの隣で作業することもありました。
このように、中小企業では会社の損益が直接自分の懐に影響を及ぼす経営陣が現場にいたりします。
社長が自ら作業をしたり営業をしたりしている中小企業は全然珍しくありませんよね。
一方、上場企業となると規模が大きいですから社長を始め役員など経営陣が現場に顔を出すなどということは稀です。来たとしても見回り程度です。
Eは上場企業の製造現場で役員が作業するなどという光景は見たことがありません。
最初の派遣先の工場では、なにしろ会社の一大プロジェクトですから、経営陣が率先して現場のオペレーションから派遣社員のシフトに至るまで把握していたことでしょう。
その中で材料が間に合わなくて一日手待ちになる日に「派遣社員全員を休業にする」との決定を下したのでしょう。
しかし、大企業の現場に細かいオペレーションにまで介入する経営陣はいません。
そこにいるのは上長であってもやはり労働者です。
もちろん人件費など経費を抑えて生産できればそのリーダーの評価が上がるかもしれませんが、当時のリーダーに人件費が責任範囲だったようには見えませんでした。
いち労働者が指揮命令系統や責任範囲ががっちり決まっている大企業で、大出世しようと思えば別ですが、そこそこ上手くわたっていこうと思えば無難な行動を取るでしょう。
契約違反、ひいてはコンプライアンス違反につながる可能性のある行動を取ってまで人件費を節約するメリットはそこまでありません。
この上場企業の行動原理からも、派遣先を選ぶ際の条件として「工場派遣で働くなら大企業、それも上場企業にすべき」と言えるのでした。
派遣先D 大手有名上場企業
さて、Eが現在勤務している派遣先です。
企業名は日本のほとんど誰もが知っていて、ほとんど誰もがこの会社の製品を使っています。
ここで働いて2か月が経ちますが、コロナによる受注減などの気配も感じられずどのラインも順調に動いていて、これまでのところ何事もなく順調に働けています。
ここで感じたのが、安全衛生の徹底ぶりです。
入社したての頃でした。
工場全体の生産体制のバックアップをする部署に派遣社員第一号として配属され、ある時先輩に教えられながら脚立に乗って天井の配線の作業をやっていました。
すると部署のリーダーが通りかかり、「慣れるまでさせないで」と言って止められました。
脚立に乗っているだけなんでEが怪我をする可能性は体感で1%未満です。
他人が見ても、そのリーダーが見てもそう思うはずです。実際その場でEに作業を押していていた先輩も唖然としていました。
この安全に関しての注意はこれにとどまりません。
大して重くもないものを持っていても「足元気を付けて」とか、「無理しないで」「ゆっくり」とか、過保護ママのようにあちこちから声がかかります。
ありがたいことではありますが、正直時々うざい、と思ってしまいます。
大企業が労働災害の発生を恐れるのはやはり、世間の企業イメージの低下があるでしょう。
また、労災保険は労災認定されて保険給付が増えると、労災保険料が上がる仕組みになっています。
そこで労災隠しをする企業もあったりします。
ただ、労務管理のコンプライアンス違反と同じで、上場企業で労災隠しが明るみに出た場合、株価に影響を及ぼし、顧客との取引停止などの重大な損失につながります。
身近に起こった重大な労働災害
安全衛生、特に労働災害については地元上場企業でもかなり徹底して防止の対策を講じていました。
それでも起こるのが労働災害で、地元上場企業にEが在籍した3年余りで大きな事故が2件ありました。
①派遣社員が作業中に割れ物の破片で手の腱を切る
②ベテラン社員が機械で指を半分以上切ってしまい、結局切断することに。
どちらもEのいた作業場で起こった事故でした。
①の手の腱を切った派遣社員は夜間の勤務中にEのすぐ横で作業をしていました。
彼がなぜか手をずっと抑えていて、大量に出血しているのを見たEがリーダーに報告し、リーダーが病院に連れて行きました。
彼が怪我をする原因になった作業は、Eも毎日繰り返しやっていた作業です。
②のベテラン社員が指を切断することになった事故もEの隣の工程で起こりました。
彼が使っていた機械はEは扱ったことはありませんでしたが、まさに「切断」の工程で製品を切断をするための機械でした。
その社員はEが入るずっと前からその部署で働いていてその機械の操作はお手の物だったはずです。
それでもちょっとした油断、あるいは焦りで指を切断という重大な事故が起こってしまします。
このように労働災害の危険はどこにでも潜んでいます。
そして、上場企業は労働災害の発生リスクをなくすことにも血眼です。
一度発生した重大事故は徹底的に原因究明して再発防止策を講じます。
例えば地元上場企業、割れ物の破片で手の腱を切った事故以降、作業者はガラスのような破片に触れても手指が切れることのない(刺し傷には弱そうですが)厚い手袋をして作業することになりました。
当然その手袋は分厚いんで細かい作業がしにくくなり従業員の間では不評でしたが、もともと仕事での怪我は絶対にしたくないタイプで、しかも当該重大事故を至近距離で目撃したEは、分厚い手袋を支給されて心底安心しました。
今の派遣先はまだ2か月で、リアルタイムで事故が起こったとの話は聞いていませんが、数十年前に国内のどこかの工場で死亡事故があったと聞いています。
Eも作業中に何度も注意喚起を受けると、うるさい~、うざい~、とつい思ってしまいますが、これこそ過信に他なりません。
明日から気を引き締めて、安全第一で作業します。
どうでしょう、中小企業でこれほどの従業員への安全衛生への配慮があるでしょうか。
まとめ
そんなわけで、工場勤務の派遣先の条件として、大企業、それも上場企業を選んでおけば待遇に関しては間違いがないとの結論に至りました。
もちろんEが勤務した職場がたまたまそうだっただけで、上場企業だからと言って必ずしもコンプライアンスを守っているとは限りません。
人によりそれ以外にも、仕事内容、人間関係など職場に求めるものは様々です。
Eの体験を職場選びの参考にしていただければと思います。
現派遣先の状況についてはこれからもこのブログにてお伝えしていきます。
次回をお楽しみに!