2023年6月。
そろそろ梅雨入りですかね。
少し前、いやだいぶ前の4月のこと。
4月1日からの派遣社員Eの時給が50円アップとなりました!
現在の派遣先、大手上場企業の地方工場で派遣社員として働き始めて2年半。今回で通算200円の時給アップとなりました。
時給アップは約1年振り3回目です。
物価高に伴い賃金のベースアップが実現した企業も多いかと思いますが、黙っているといつまでも賃金が上がらないのが派遣社員。
今回はEがひとり春闘を敢行し、50円の時給アップを実現した経緯を解説します。
前回の時給アップ(2022年12月)について解説している過去記事です。
過去の時給アップ経緯
と、今回の時給アップのいきさつに入る前に、過去2回の時給アップの経緯を振り返ります。
現在の有名上場企業の地方工場に派遣社員として働き始めたのは今回の時給アップから約2年半前。
その経緯です。
2020年10月 入社
2020年4月 1回目の時給交渉開始
具体的には、派遣先部署のリーダーに「同じ条件(時給)では次の契約はできない」と伝えてプレッシャーを与えた。
前提として、Eは入職後半年で一般の工場派遣社員にはないスキルを十分に発揮していた。
2020年5月 時給50円アップが決定する
2021年11月 2回目の時給交渉開始
入社後1年が経ち、派遣契約の職務内容を大幅に上回り、多岐に渡る業務をこなすようになり(Eの存在が不可欠となる)、このスキルアップを交渉材料とした。
2021年12月 時給100円アップが実現する。
と、半ば遊び感覚で時給交渉ゲームを繰り広げたEでしたが、その活動もそこで頓挫しました。
理由はこれです。
①2回目の時給アップ後に新人派遣社員が2人増員、新たな業務範囲の拡大ができなくなった。
②2度の時給アップで「Eに新しい業務をさせるな」体制が敷かれた(と思われる)。
そんなわけで昨年2022年後半は基本的に日々ヒマになり、開き直ってヒマを享受していたEでした。
職場がヒマでだらだら過ごしていた昨年2022年12月の記事です。
「ひとり春闘」開始
さて2023年が明けました。
と、昨年1年を振り返れば長引くコロナ禍にウクライナ戦争。
その影響などもあり、急激な円安に物価高と暮らしにくい世の中になってきました。
円安に関しては米国株の取引で逆に大幅な利益を得ましたが、物価高に対してはどうにもなりません。
唯一の対抗策は「収入を上げること」だけです。
コロナ禍が収束を見せてきたおかげもあるのか、Eの派遣先工場は徐々に忙しくなってきました。
と、Eと同部署の社員さんに労働組合の仕事も兼任している人がいるんですが1月のある日のこと「そろそろ春闘が始まるんですよ」と漏らしていました。
そう、あの「日本において毎年2月頃から行われるベースアップ等の賃金の引上げや労働時間の短縮などといった労働条件の改善を交渉する労働運動」のことです。
Eはその社員さんがふと漏らした「春闘」の言葉を聞くと、全身を雷で撃たれたかのような衝撃が走りました。
「これだ!」
と。
物価高の世の中をただ耐えるだけでいいのか?
できることがあれば行動するのが、そう「負けない派遣社員E」なのではないのか!
と立ち上がったのでした~
⇒ 『春闘』についてのWikipediaのページはこちら
今回の時給交渉の作戦
まず、今年1月時点での現状把握。
①新たにEが覚えた仕事などは特になし。逆に後輩派遣社員二人がEのそれまでの業務を引き継いでいる。
②業務量は平常時に戻っていて、生産量は今後増えていく見込み(実際、その後かなりの増産をしてる)。
③世の中、大企業を中心に賃上げのニュースで持ち切り。
という状況でした。
ここから判断できることはこうです。
①過去二回のようにスキルアップによる時給アップは見込めず。
②とりあえずかなりの人手不足で、いるだけで大事にされる。
③大企業であるEの派遣先も(社員の)賃上げは期待大と思える。
以上の現状分析からEが導き出した作戦はこうでした。
交渉相手は派遣会社
これまでは派遣先である大手有名企業を相手に時給交渉をしてきました。
つまり、Eに支払われる賃金を支払う大元からより多く出させよう、というわけです。
しかしスキルアップができない、させないようにされている現状では派遣元との交渉では見込み薄。
となれば派遣社員Eに残された選択肢はひとつ。
派遣会社を相手に時給交渉!
となるわけです。
派遣先の企業はまず派遣会社に「派遣料」を支払い、派遣会社はそこから管理報酬として手数料(マージン)を差引いた額が派遣社員に賃金として支払われます。
Eの派遣会社が何%の手数料を差引いているかはわかりませんが、今回は「派遣会社がそれまで差引いて懐に収めていた手数料という分け前を、Eの方に融通してもらう」ということでしか勝機は見出せない。
と、結論づけたEでした。
ちなみに、今から二つ前に働いていた派遣先では派遣料から30%の手数料が差し引かれていました。
派遣会社は今と同じですから、現派遣先も概ね同じ割合かと思われます。
あの時の手数料の額がわかった理由は、工場の現場で派遣社員も使っているパソコンから、派遣先企業のサーバーにある資料が覗けたからでした。
派遣社員が機密文書を見放題なんてセキュリティ緩すぎですよね。
さて、ここからEが実際に取った行動を解説します。
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派遣会社とのやり取り
まず、Eは派遣会社の担当者に次のようなメールを送りました。
ここでひとつ。
Eはこういったやり取りは電話ではなく、文書が証拠として残るメールですることにしています。
これ、言った言わないの話にならないために重要な点です。
メールの内容はこうです。
Eのメール文面:
「お疲れ様です。昨年10月で勤続2年越えました。定期的な昇給ってあるんでしょうか?
同一労働同一賃金の労使協定で業種と地域と年数で上がる、との説明を受けた記憶があるんですが」
「同一労働同一賃金の労使協定」って何?
と思うかもしれません。
これについてはEの担当もよくわかっていないようでした。
無理もありません。Eが「説明を受けた」というのは同一労働同一賃金の制度が始まった3年前で、当時の担当は今とは別の人です。
担当からは次のような返事がありました。
担当のメール文面:
「弊社では4月が昇級の見直しとなっております。そのタイミングでの会社経営状況等によります」
とのこと。
これ、Eには完全に想定内です。
Eは畳みかけます。
E:「ご存じかわかりませんが、2年前の3月に同一労働同一賃金導入の際、確か賃金の決定方式として「同種の業務に乗じする一般の労働者の平均的な賃金の額」という職業安定業務統計の表の業種と勤続年数に応じた金額を上回るようになるとの説明を受けました。
「会社経営状況等による」とのことですが上記の表の基準額(に地域指数を乗じた金額)は考慮されるんでしょうか?」
さて、何のことやらわかりませんよね。
担当もびっくりしたんじゃないでしょうか?
案の定、さっぱりわからないようで「確認してお返事します」との返事。
Eのメールの内容を簡単に言うと、
企業は派遣社員を含む非正規労働者の待遇を、派遣会社が派遣社員の待遇を正社員と同一にしなければならない。
かといって派遣会社が派遣先企業を相手に「不合理な待遇差を是正して~」などとはなかなか言えない。
そこで労使協定を結ぶことで、賃金を「同種の業務に従事する一般労働者の平均的な賃金の額」(いわゆる一般賃金額)以上にすればOKとする「労使協定方式」というやり方が可能である、ということです。
「一般賃金額」は厚生労働省のこういった資料で定められています。
時給換算でこの表の金額を上回れば制度上問題なし、となります。
実はこの制度について元社会保険労務士Eは、同一労働同一賃金が制定された3年前に当ブログ内で複数回、詳しく解説していました。
つまりEは制度について完全把握しておきながら「確か、説明を受けた記憶があるんですが…」ととぼけたわけです。
過去記事です。
そして翌日担当からメールが。
担当:「昨日のご質問に回答します。
基準額を考慮した上での今の時給設定になっています。昇給に関しては会社経営状況等による、ということになります」
と。
なるほど。
ここでひとつ疑問が。
3年前に当時の担当からEの派遣会社が導入予定の労使協定方式の説明を受けた時に渡された一般賃金額の表は今の派遣先とは別の業種のもの。
では、今の派遣先の業種の一般賃金額はちゃんと上回っているの?という疑問が生まれます。
Eはさっそく担当にメールで質問。
返答には数日かかりましたが、担当が現派遣先が該当する業種を教えてくれました。
早速ネットで検索して当該の表を調べてみると、担当が示した業種では、Eの時給はしっかり一般賃金額を上回っていました。
Eの時給は制度的に問題なし、ということになります。
これというのもすでに150円の時給アップを実現していたからこそなんですが、当初目論んでいた「Eの時給が一般賃金額を下回っているから時給を上げて~」という制度を根拠とした交渉はできないことがわかりました。
となると最後に残された方法はひとつ。
最終手段「情に訴える」
理屈で時給交渉という道が閉ざされた後に残った方法は、
とにかく情に訴えて派遣会社の譲歩を期待する
ということしかありません。
成功するかどうかはわからずとも、とにかく担当が「昇給の見直し」をするという4月に向けて、Eは事あるごとに担当にプレッシャーを与え続けました。
担当から電話やメールがある度に「最近何かと値上で大変で…」とか「このままではセブに移住して働いた方がいいかも…」などとこぼしたり。
もちろんEの家族が住むセブに移住したからといって今以上の収入を得る見込みなどないわけですから100%はったりですが、担当にそれがわかるわけがありません。
最後の後押しは3月中旬。
契約更新の意思確認のメールが来た時でした。
Eはいつものように「また契約よろしくお願いいたします」の返事。その後に追伸メールを、
E:「契約といえば、4月からの時給アップ決まりましたか?
社会全体の流れからも昇給を大いに期待しております」
と。
担当からの返事。
担当:「上司と相談します。
が、期待は最小でお願いします」
とのこと。
さあやれることはすべてやった。結果はどうなることやら。
時給アップ決定!
3月末のある日の仕事帰り、担当から直接電話が来ました。
「Eさん、4月からの時給50円アップとなりました」
やった!
車を停めて電話を受けていたEはガッツポーズ。
特に何の根拠もないのに3回目の時給アップが実現しました。
担当に「それって派遣先が派遣料を上げてくれたんですか?」、「他の人たちもみんな一斉に上がったんですか?」と、聞いてみたいところですが、担当も内情をEにばらしたくはないかも知れないので、それは控えておきました。
その後、職場の同じ派遣会社の派遣社員にそれとなく聞いてみると、E以外に時給が上がったという人はいません。
もちろんEは時給が上がったことは隠していましたから、聞いた人の中には実際は上がったのに隠していた可能性もありますが、少なくとも「全員一律で50円アップ」ではないことは確か。
人間やはり、手にした成果が自分だけのものだったりすると嬉しいものです。
その日は勝利の美酒に酔いしれましたが、もうひとつやることが。
担当は電話では「50円アップ」とだけ言っていました。
そこで担当にメール。
E:「4月からの時給は50円アップの○○円で間違いないでしょうか?」
と。
すぐに担当からの返信、
担当:「間違いないです」
とにかく文書で言質を取っておかないと安心できないEでした。
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まとめ
と、これが今回の時給50円アップの顛末です。
今回は特に何の材料も根拠もないけど「情に訴える」こと、「しつこく食い下がる」こと、端的に言えば「かけひき」によってで50円という最小限ながらも成果を勝ち取りました。
Eはこれまでの人生でも何度もあったように、「行動してみる」ということで「ただただ待つ」というだけではなかなか得られない成果を上げたわけです。
時給50円。
一日8時間の労働で400円。月170時間労働とすれば8,500円。
昨今の物価高を補うには微妙な額ですが、ないよりは全然マシな額です。
今回のEの「ひとり春闘」。
非正規労働者のみなさん、ぜひ参考にしてみてください。
今後も派遣社員が生き残る上で参考になる情報をお届けします。
次回をお楽しみに!