職歴紹介シリーズ、司法書士兼土地家屋調査士の補助者の仕事、続編です!
さて、前回は土地家屋調査士の(補助者の)業務のひとつ測量と製図の仕事について解説しました。
今回はEが補助者として勤務していた司法書士の先生が行っていた主力業務、不動産登記の仕事について解説します。
とはいえ、資格試験に合格するだけで何年もかかるのが当たり前の司法書士。
複雑な法律が絡む業務をいちブログ記事で紹介するのは困難!
そんなわけで当時Eが補助者として関わっていた不動産登記の多くを占めていた「所有権移転登記」についての解説と、Eも実際に自力で行った比較的簡単な「相続登記」の申請の流れについて解説しちゃいます。
事務所就職当時
前回の記事では事務所の土地家屋調査士の業務、測量とCADによる製図の仕事を覚えるのに苦労した話をしました。
一方、司法書士の業務はそう困難ではありませんでした。
登記申請書やその他の書類は素人にはさっぱり意味が分かりません。当初は先生に下書きを渡され、それを申請用ソフトを使って作成、オンライン申請をする「だけ」でした。
測量や製図といった技術的なスキルは不要。不動産登記のオンライン申請をするために、パソコンの知識が多少必要となるくらいです。
ちなみに当時、オンライン申請のために書類を「word」でなく「一太郎」で作成しなければならない場面があり、それには少し戸惑いました。
そんなわけで就職から最初の数か月は測量を覚えるのに必死だったこともあり、民法や不動産登記の知識については放置していました。
やがて冬が来ると、測量が必要な土地家屋調査士の業務がぱったりと途絶えます。
月から金まで一切現場での測量作業なし、CADにも触らず、という状態も当たり前になります。
それまで事務所の仕事の八割、いや九割を占めていた仕事がなくなると一日ホントにやることがなりなります。
事務所には先生の他に、事務をしている先生の奥さんがいますが、毎年冬はヒマが当たり前なんで平然とのんびり過ごしています。
先生は何やら業界の専門書を読んだり奥さんは雑誌を読んだりしていましたが、Eはというと。
事務所にある、不動産関係の法律、民法や不動産登記法についての書籍を読み漁っていました。
当時、社会保険労務士の試験勉強中だったんでヒマなら社労士の試験勉強をしたいのはやまやまだったんですが、さすがに事務所の仕事と何の関係もないテキストを広げるのも気が引けました。
社労士の勉強は先生が不在の時だけにしておいて(結構よく不在でした)、事務所の書籍の中に素人向けの民法全体を網羅した分厚い解説本があって、ヒマ潰しとはいえ面白く読めました。
その他にも各場面に応じた不動産登記申請書の書き方解説なんかも読んで、今やっている業務が何なのかという疑問が少しずつ氷解していきました。
春が来る頃にはだいぶ業務の裏付けとなる知識が増えていました。
Eはその数年後、宅建士試験にも挑戦(1点不足で不合格)試験科目である民法を改めて勉強したこともありました。
そんなわけで、Eは司法書士事務所での実務経験と相まって不動産についての法律や手続きは一般の人よりは詳しいと言えます。
価格:1,980円 |
こんな感じの本でした。民法は結構面白いです!
不動産特化型事務所
司法書士が行う業務は、もちろん不動産登記だけではありません。
会社設立などの商業登記や裁判所に提出する書類作成、成年後見など様々です。
が、Eがリーマンショックの中どうにか就職できた事務所のボス、60代の老先生はというとほぼ不動産登記の業務しか受けていませんでした。
Eの在籍中にも商業登記や成年後見人の依頼が入ることもありましたが、ことごとく他の司法書士を紹介するなどしてお断りしていました。
過去の記事でも述べましたが事務所の先生の経歴は、測量事務所就職→測量士資格取得→土地家屋調査士資格取得→司法書士資格取得。
どの資格もそうですが、得意分野や守備範囲というものがあって、Eの事務所の老先生は経歴から言っても守備範囲が不動産に関する業務にガチガチに固定されていたというわけです。
そして事務所がある場所。
過去には測量事務所のあった場所で、しかも地元の大手の測量会社の横に併設されている感じの立地条件。
当然、測量会社から回ってくる登記の仕事も多くあり、言ってみれば測量事務所の御用聞き的な存在でもありました。
そればかりでなく、先生の実家は昔は大農家だったようで事務所は市街地にありましたが地元の農村からも不動産に関する各種の依頼が入ってきていました。
では、その土地に関する司法書士の業務の中で頻度が多かったのもはというと「所有権移転登記」でした。
「所有権移転」っていったい何?
わかりやすく言うと土地や建物の持ち主が変わることです。
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土地の所有権ってなに?
不動産登記について説明する前にまず、「所有権」というものから考えましょう。
「所有権」とは、法律的にこのように表現されています。
物を自由に使用・収益・処分できる物権
物を全面的に支配する権利
なるほど、自分の土地は家を建てたりと全面的に支配できるし、他人が入ってくることを拒否できたりします。
でも所有権って土地や建物などの不動産だけではなく、いろいろな物にありますよね。
所有権はあらゆるもの、車や貴金属など高額な物だけでなく、靴や傘からペットにまでに及びます。
そして所有権は通常、登記どころかなんの書面もなく、名前さえ書いてなくても有効ですよね。
では、なぜ不動産にだけは登記のシステムがあるの?って思いますよね。
不動産、特に土地の所有権は歴史的にも豊臣秀吉が全国的な検地を行ったように社会システムに大きな影響を及ぼします。
国家にとって重要なのは徴税の問題です。それだけでなく、普通に考えても隣人間の境界トラブルが起こり得ます。
様々な不動産の所有権トラブルは日々発生しています。
そして登記しておくことによって所有権は絶大な効果が発揮され、多くの問題が登記によって解決されます。
民法を勉強しているとよく出てくる問題となるケースですが、詐欺などの悪意のある人によって自分の土地が勝手に他人に売られたとしても登記があれば自分の所有する土地であることを主張でき、(かわいそうですが)騙されて買った人のものになることはありません。
所有権の「移転」ってなに?
所有権の「移転」とは、ある物の所有権が別の人に代わることです。
所有権移転が発生する場面は様々です。
代表的なものは「売買」や「贈与」があります。
ときどき起こるものとして人が亡くなった時の「相続」や「時効取得」などもあります。
「時効取得」って馴染みがない人が多いかと思いますが、なんと土地って他人の土地でも10年20年占有し続けると、条件を満たせば占有していた人に所有権が移ってしまうケースがあります。
実際に時効取得の登記申請書を作ったことも何度かありました。土地をたくさん持っている人は自分の土地が他人に占有されていないか気をつけた方がいいですね。
話を所有権移転に戻します。
例えば、コンビニでおにぎりを買うとお金を払った瞬間、おにぎりの所有権はコンビニから買った人に移転します。
そして、コンビニでおにぎりの所有権が移転する時同時に、店員さんとお客さんがひと言も発しなかったとしても、実は売買契約とその履行が行われています。
コンビニの例では売買契約は意識されることなく始まっていつの間にか終わっています。
が、比較的高価な買い物をする時は売買契約書として書面が交わされる場合もありますよね。
法律上、口約束でも契約は成立しますが、口約束は何の証拠も残りません。
そのため高額な買い物、特に不動産の取引にはほとんどの場合、売買契約書が交わされます。
契約をする場合に書面を交わすかどうかは基本的に当事者同士の自由ですが、当然書面を交わした方が後々のトラブルを防げます。
また、宅建業者が仲介する取引には宅建業法によって契約時の書面の交付が義務となっていたりします。
そして不動産の所有権を国が管理してくれるのが不動産登記のシステムです。
不動産登記の効力
不動産登記の効力には「対抗力」「権利推定能力」「形式的確定力」の3つがあると言われています。
って言っても何のことかわかりませんよね。
Eも法律を基礎理論から勉強したわけではないんでさっぱりわかりません。
でも、なぜ所有権が移転したら登記をしなければいけないのかはこれまで触れてきた知識からなんとなくわかります。
登記をすると所有権を第三者に主張することができる(対抗力がある)からです。
例えば、Eが持っている土地EをAさんとBさんを騙して二重に売ったとします。
AさんともBさんとも正式に売買契約を交わしています。
Aさん 土地の代金を全額支払って、家を建てた。登記はしていない。
Bさん 土地の代金を頭金だけ支払った。登記は完了した。
この場合、土地Eの所有権はどちらのものになるでしょうか。
はい、みなさんの予想通り登記を完了したBさんが所有権があると主張(第三者に対抗)することができます。
Aさんは家まで建てたのに騙されてかわいそうですよね。
ただこの所有権は「推定」であって、Bさんの登記が何かしら事実と違うものであると反証されれば登記は覆ることがあります。
そして、覆されずに登記が存在するからにはとりあえずこの登記で形式上は確定とされます。
というのが登記の効力です。
※法律の専門の方々、説明に誤りがあればご指摘お願いします。
素人が実践する「簡単な」相続登記
さてEは数年前に他界した父が残した土地と自宅の建物を自力で相続登記しました。
司法書士事務所に在籍していた頃に補助者として関わった所有権移転登記の中で、一番多かったのは「売買」によるもの。
そして二番目に多かったのが「相続」によるもの(以下、「相続登記」)でした。
相続登記については、比較的「簡単な」ケースであれば自分でやってみることをお勧めします。
理由がこれです。
・司法書士に支払うはずの登記報酬が節約できる
・争いが起こりうる相手がない、または後々起こったとしても身内だけ
・法務局の職員が親身に指導してくれる
相続登記で司法書士に支払う報酬の平均は6~7万円です。
登記申請書をつくったり添付資料を集めたりするのに結構自分で動かなければならないとはいえ、この金額が節約できるのは助かりますよね。
またこれから解説する相続登記とは、あくまでも登記されている不動産に関してのみです。その他故人の財産(現金、預金、有価証券、その他物品など)には当てはまりません。
「簡単な」相続登記とは
この章では素人が行う「簡単な」ケースの相続登記の流れについて解説します。
「簡単なケース」というのは次の条件に当てはまらない場合です。
①身内が把握していない相続人がいる可能性がある
②遺言状がある
③相続物件の取り分などに争いがある
このような場合には、司法書士に依頼した方が無難ですし、Eも責任は取れません(というか全般的に自己責任でお願いします)。
特に遺言状があった場合は、様々な条件(遺言書が有効かどうか、公正証書遺言かどうか、遺贈があるかどうか、など)や手続きが一気に増えるから素人には困難でしょう。
Eが自力で行った相続登記は、相続人(法定相続人)が三人(E、母、妹)、全ての物件をEが相続で異論なし、遺言書なし、隠し子なし、物件は3件のみ(自宅の土地・建物、その他土地)と比較的簡単な部類の相続手続きでした。
日本で最も簡単な相続登記は「相続人がひとりだけ、物件もひとつだけ」の登記でしょうね。
登記申請の窓口は管轄の法務局です。
法務局には登記相談の窓口があって、自力で登記申請をしようと相談に来た人にも親切に指導してくれます。
が、なんの知識もなくいきなり相談しても、職員の説明を理解するためだけで膨大な時間が過ぎるでしょうし、申請資料を作って行ってもやり直しになって何度も来庁を繰り返すことになります。
相続登記の用語解説
そこで、相続登記で使われる用語解説です。
【被相続人】 故人。これから相続を行う物件のこれまでの所有権者。
【相続人】 ここでは民法で定められた相続財産の法定相続人。
法定相続人とは、
➡まず配偶者は必ず相続人。だからこそ婚姻届って重要。
➡子供がいれば子供までが相続人。
➡子供が死亡していれば孫、ひ孫(子孫)が子供の代わりに相続人。
➡生存している孫、ひ孫(子孫)がいればここまで(第一順位)が相続人。
➡第一順位がいなければ、生存している両親や祖父母は相続人(第二順位)
➡第二順位もいなければ、生存している兄弟姉妹は相続人(第三順位)。死亡していればその子(甥や姪)が代わりに相続人
【遺産分割協議】 遺言書がない場合、相続人の間の話し合い(遺産分割協議)によって相続物件を誰が相続するかを決める。相続登記の添付書類として話し合いの結果である遺産分割協議証明書を提出する。
【登録免許税】 不動産登記をする際の手数料的な税金。収入印紙で納める。税額は市町村が定める各物件の評価額に税率を掛けて算出する。税率は登記申請の種類によって異なり、相続登記の税率は1000分の4
相続登記の流れ
それでは、相続登記の流れです。
当ブログで解説するのはあくまでも流れです。登記申請書、遺産分割協議書などの書類作成の詳細については他ウェブサイトを参照するか法務局などに問い合わせてください。
①相続人を確定させる(把握していない相続人がいないか確認する)
②そのためにはまず、市町村役場で被相続人(故人)の戸籍謄本、除籍謄本等を集める。
その際に窓口で、 被相続人 の「出生(15歳からでもいい説あり)から死亡時までのすべての戸籍をください」と伝える。これで職員は相続登記に必要な書類がほしいということがわかる。集めた戸籍等は同時に相続人が誰かを証明するための登記申請の添付書類としても必要。除籍謄本には相続人でもある妻や結婚していない子も同時に記載されていたりする。
集めた戸籍から把握していない相続人(隠し子など)がいないかを確認する。
③ついでに市町村役場で被相続人の最後の住所を証明する書類(住民票の除票、戸籍の附票など)を取得する。相続登記の添付書類として必要。
④被相続人が残した不動産の「権利証」「登記済証」「登記識別情報」などの登記関係書類を集める。
⑤上記の書類現物以外にも被相続人が所有していた不動産の有無を確認。法務局で故人の所有する不動産全ての登記謄本(登記事項証明書)を集める。
これによって相続の対象となる物件がほぼ把握できる。
登記申請書を作成する際の各物件の所在、地番、地目、地積(土地の場合)など物件情報もわかる。
但し、不動産の登記簿謄本は登記申請の添付書類ではない。
⑥上記の登記簿謄本を元に、市町村役場で各物件の評価証明書を取得。
各物件の評価額が登録免許税の計算根拠となる。
⑦ここまで集めた情報を元に、相続人の間で相続物件の取り分を決める(遺産分割協議)
⑧相続物件の取り分が決まったら次の書類を作成する(書き方は各々参照のこと)
「遺産分割協議証明書」 遺産分割協議で決定した内容を記載する。 相続を受ける人が複数いる場合は各人ごとに申請書を作成する (相続人全員の印鑑登録済の押印が必要)
「登記申請書」 相続を受ける人が複数いる場合は各人ごとに申請書を作成する。相続を受ける人の押印が必要
「相続関係説明図」 被相続人と相続人との関係を表した家系図のようなもの。これは戸籍等を原本還付してもらうために必要。戸籍を返してもらう必要がなければ不要。
⑨相続人全員の住民票と戸籍謄本と印鑑登録証明書を集める。
⑩登録免許税の税額分の収入印紙を買って台紙に貼る。収入印紙は郵便局や法務局でも買える。台紙も法務局でもらえる。
⑪ここまでに準備した、次の書類を法務局に提出する。
□ 登記申請書
□ 遺産分割協議証明書
□ 評価証明書
□ 相続人全員の住民票と戸籍謄本と印鑑登録証明書
□ 故人の住民票の除票、戸籍の附票など
□ 故人の出生から死亡までの戸籍謄本、除籍謄本など
□ 相続関係説明図(戸籍謄本等を還付してもらう場合)
□ 登録免許税の額の収入印紙を貼付した台紙
と、ここまでが申請までの流れです。
【参考資料】
登記申請書の雛型はこちら
引用元:法務局HP https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/minji79.html
申請後の流れ
窓口で申請をするとだいたい何日後に審査が終わるか教えてくれます。その頃に再度法務局で確認します。
不備があれば補正が必要とされるので補正するべき内容を確認して再提出します。
申請が受理されると次の書類が渡されます。
・登記完了証
・登記識別情報
この二つ、特に登記識別情報は昔でいう「権利証」に当たるものなので大切に保管しましょう。
下記のサンプルのようにシールが貼ってあってシールの下に不動産を特定するための記号が記載されていますが超重要情報なのでシールは剝がさないように。
登記識別情報のサンプル
引用元:高知県司法書士会HP
https://www.kochi0888253131.com/qa/1708/
この禁断のシールを剝がすのは誰かというと、当時のEのような司法書士の補助者だったりします。
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まとめ
やっぱりこうして書き出してみると非常に多くの書類が必要で素人には大変ですね。
とはいえ、何度も法務局に通う覚悟があれば自力でできます。司法書士に払うはずの報酬が節約できます。
Eは「簡単な」自分の父親の相続登記をするには充分な知識があったので、署名捺印する前の書類を一通り揃えて法務局で見てもらい、指摘された申請書の記入ミスなどを直して母と妹の署名捺印をもらい再度法務局にて提出。
数日後に登記完了、書類受け取り。
法務局に三回通って無事登記を済ませました。
少し前まで相続登記は義務ではなかったため、世の中には何代にもわたって放置されて、遥か先祖の名義のままになっている土地なども残っています。Eも実際にそういう土地の登記に係わったこともあります。
戸籍集めや書類のハンコもらいは困難を極め、相続関係説明図には膨大な数の相続人の、恐らくはお互い顔も知らないような遠い親戚の名前が載ります。
が、最近になって相続登記は義務化されて3年以内に行わなければ罰則もあります。
相続登記は早めに、確実に行いましょう。
「その時」が来たらせひ今回の記事を参考にしてください。
ひとつ注意があって、他人の登記に係わるのはやめておきましょう。責任が重大すぎますし司法書士法に違反、犯罪になる可能性もあります。
次回をお楽しみに!